本の紹介


 
 「旅」とひとことで言っても、どのような場所に行ったか、どのような時期に行ったか、他にも移動手段や滞在日数などの違いによって、その色合いは大きく変わります。またそれが、移動ルートの選定や宿泊先の手配などを自分の手で行ったものなのか、或いはすべてを特定の旅行会社に委ねたものなのかどうかという違いは、時に、旅の経験の質を左右することもあるかもしれません。
  遠い昔、旅に困難は付き物でした。しかし昨今、交通機関の発達や、旅行代理店の台頭などにより、旅はより身近で安全なものへと著しい変化を遂げています。そんな中、あえて多くの不便や危険を伴う昔ながらのやり方で旅に挑む人々が存在します。今回は、そんな旅人たちによる「旅」の醍醐味を伝える3冊の本を紹介します。
 

 鉄道でユーラシア大陸を横断するという約1ヵ月にもおよぶ長旅は、大陸最東端の駅であるワニノ駅から始まります。とは言うものの、その旅は、「世界最悪」と銘打たれているだけあって、やはりすんなりとは始まりません。チャーター機で夏のロシアに降り立った後、なぜかお湯の出ないホテルのシャワー(p.23)やなかなか出発しないフェリー(p.27)、夏に大発生する蚊の群れ(p.22)などに悩まされ、サハリン州対岸にあるワニノ駅へたどり着くまでに相当な時間と労力を要してしまいます。ワニノ駅から大陸最西端のポルトガル、カスカイス駅までの鉄道旅行を描く本書は、いくつもの国境を越え、2万キロにもおよぶ陸路の旅を続けることの難しさ、そしてそれ故にもたらされる喜びや感動で溢れています。
 「寝台車の狭いベッドに揺られながら眠った夜は二十六晩にもなってしまった。眠れない夜、デッキに立って砂漠の夜空を見あげていた。月が欠け、また丸みを帯びていく。こうして西へ、西へと進んでいった」(p.396)という著者の言葉には、目的地を目指して困難な旅を続けることの手応えや充実感が感じられます。単なる観光目的ではなく、ある場所への移動そのものが目的となる――そのような旅が今も確かに存在しています。


 
 タイトルにある「グレートジャーニー」とは、700万年程前にアフリカ大陸に誕生した人類が、世界各地に広がり、遂には南アメリカ大陸の最南端に到達するに至った、気の遠くなる程に長い旅路のことを指します(p.11-12)。考古学者、ブライアン?M?フェイガンにより名付けられた「グレートジャーニー」を辿る旅を終え、武蔵野美術大学で文化人類学を教えていた著者は、ある日、新たな旅のルートを思いつきます。そのようにして、本書に描かれる「海のグレートジャーニー」、古代の人々が東南アジアから日本列島へとやってきた海のルートを辿る旅は幕を開けます(p.14)。その旅は、ただルートを辿るだけでなく、巨木を削って船を造り、木の樹皮から縄を編み、さらには船に積む保存食までも自らの手で作って挑んだ果てしなく壮大なものでした。
 それまで一人で旅を続けてきた著者は、今回初めて幾人かの学生たちと共に旅することを決意します。「いままで以上に困難で不便な旅になる。(中略)私たち現代人が忘れてしまった大切な何かに出合えるかもしれない。そんな体験を六〇歳を過ぎた私が独り占めしてしまうのは、もったいないと思った」(p.16)という著者の熱い思い、そしてその思いに導かれるようにして多くの困難を乗り越えていく若者たちの姿に胸を打たれる1冊です。



 極寒の地や深い海の底、標高8000メートルを超える山々や地下深くに潜む大洞窟など、かつて世界各地に点在した人類未踏の地の多くは、この100年程の間、勇気ある人々による旅の目的地として大きな注目を集めてきました。飛行船による世界1周(p.128)や海底に設置した水中ステーションでの1ヶ月に及ぶ海中生活実験(p.96)など、未知の領域に一歩足を踏み入れる人々の姿もまた、世界に大きな衝撃を与えてきました。そのような「旅」は、時に「冒険」や「探検」と呼ばれ、無事達成された際には称賛の嵐が巻き起こりました。困難や危険を乗り越え、歴史の1ページにその名を刻んだ冒険家や探検家たちによる旅の、劇的瞬間を切り取る本書からは、旅に魅了され、旅に生きた人々の確かな息遣いが感じられます。
  太古の昔から脈々と受け継がれてきた旅への情熱に身を委ね、今この時も、世界の多くの人々が各々の旅を続けています。皆さんもそんな旅をしてみませんか。「旅」のきっかけは常に、一人一人の心の中に潜んでいます。

 
 






 

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