本日ここに、江口福岡県副知事、香原福岡県議会議長をはじめとするご来賓の方々のご列席を得て、第七十二回卒業式と第三十一回大学院修了式を迎えることができました。224名の学部卒業生、17名の大学院修了生の皆さま、まことにおめでとうございます。ここに至るまでには、様ざまな困難があったことでしょう。教職員を代表して、お一人お一人に、その努力に負けないだけの、お祝いを申し上げます。また、ご息女の成長を信じて、お誕生以来、絶えることなくご支援をされたご家族の皆さまには、労いと感謝の言葉を捧げ、このおめでたい日をともに喜びたいと思います。
四年前、学部を卒業される皆さんは、新入生として、二年生に進級する先輩たちと一緒にキャンパスを出て、照葉にあるホテルで合同の入学式を迎えました。新人学長の私にとっても、忘れることのできない貴重な儀式であり、思い出です。
皆さんの高校生活はパンデミックの真っただ中でした。そして大学生活はコロナが沈静化に向かうなかで過ごされました。それでも楽しみにされていたクラブ活動や国際学友寮での共同生活には制約がかかり、仲間と自由に語りあい、一緒に食事を楽しむこともままならなかったことでしょう。
コロナ禍で、私たちの行動様式が大きく変わりました。人の孤立化です。フェイス?トゥ?フェイスがマスク?トゥ?マスクになり、この煩わしさから、コミュニケーションは専らケータイやSNSなどに頼ることとなりました。寮の各部屋での対話がメールで行われることもあったと伺いました。書き言葉、話し言葉に加えて、新たにSNSに打ち込むための「打ち言葉」が誕生したことも知りました。
私たちは、対人関係を結ぶ中で、相手とのインターフェイスを通して影響を与えあい、自分を意識?発見し、確立し、そして人や書物との出会いや体験を経て絶えずその自己を刷新していくものです。したがって、私たち自身の中に他人が知らず知らずのうちに入り込んでいます。いわば、自分とは他分であると言えます。自己の中に含まれる他者の量は、人により様々です。早くに確固たる信念を持ち、我を押し通す人もいます。しかし自分を作りあげる過程にあっては、巧みに距離を取り、目下の自己を主張し、他に傾聴する、こうしたしなやかな態度が成長する自分には欠かせないと思います。コロナのもとで孤立化を経験した世代だからこそ、人と人とを仲立ちするSNSなどの媒介手段(mediaメディア)だけに頼らずに、仲立ちを経ることなく直接に(im-media= immediate)対話する姿勢を忘れないでください。本学が対話の機会と場を提供する寮教育と言語教育に力を注いだ理由はここにあります。
各時代にはそれぞれに固有の時代思潮があり、それを端的に示すキーワードが生まれます。現代社会を象徴する一つのキーワードは、多様性(diversity)という言葉でしょうか。生物多様性、文化的多様性、性別多様性、多様な働き方、多様な価値観などがその例です。この多様性が、平等(equality)、包摂(inclusion)と一緒になって、DEIという呼称で新しい世界観、人の在り方が、今、叫ばれています。大切な考え方です。昨今、この動きを止めようとする動きがあります。社会には、様ざまな人がいる、様ざまな文化がある、様ざまな考えや声がある。こうした多様を観察し、相違を見いだすのは容易なことです。しかし一歩進んで、自分と他者との違いをともに尊いもの、等しいものとして認めること(equality)には、対象によっては躊躇いが生じるかもしれません。また、こうした多種多様な違いを、自分自身の中に取り入れ、一つの器、つまり自分の中に、同等なものとして納める(inclusion)にはさらなる葛藤を伴うと思われます。頭と心との間に格闘が生じる時でもあります。
かつてコペルニクスの地動説やダーウィンの進化論が認められるまでには、歴史的な時間を要したことが思い出されます。本学生物学の弓削先生は、よく「個体発生は集団発生を体現する」と話されていましたが、人類が長い時間をかけて変化(進化)してきたこと、人間が長い格闘を経て獲得したものの見方や制度、これらを個人は生涯という短期間のうちにそれを再体験し、自分のものとするわけです。女子大学である本学自身も、今、女性の多様な在り様と変容について理解の程が問われ、格闘をしているところです。
話題を転じて、修了される大学院生に問います。研究生活の中で、発見の幸運に恵まれ、「ユリーカ!(やったあ!これだ!)」と声を発せられましたか。学問研究の喜びには、大きく二種類あると言われています。一つは、自ら立てた仮説が実験や調査を経て、確かであると確認できた時。もう一つは、偶然に発見する喜び、いわゆるセレンディピティです。研究を遂行するにあたり、どのような方法をとられましたか。
現在、人工知能(AI)は、その進化により、間もなく人間の能力を凌駕する段階に達すると言われています。仮に、我々人間とAIとが競い合い、同じ結論に達したとして、AIを駆動させる研究者には、独力で発見に至った研究者ほどの喜びはないはずです。山登りに見るように、我々人間には、結論に達するまでの苦闘のプロセス、険しい山を登りきるまでの苦しいその道程が大事であり、その過程に喜びの大きさ、深さがいや増すのでしょう。
面白い逸話があります。超難問を解き明かした世界的数学者として、またエッセイストとして著名な岡潔という方がいました。この方は高野山の麓にある橋本にお住まいでした。ある朝、村人が大阪と和歌山とを隔てる紀見峠の山を登ると、仁王立ちする男を見て、驚くのです。またその日の夕方、同じ姿で夕陽に向かって立ち続ける、件の男を認めていっそう驚いたと言います。それが学者、岡潔でありました。その頃の日記には、難問を解いたことが記されていたそうです。山のてっぺんで「ユリーカ!」の興奮と喜びを、丸一日かけて身体で表現していたのでしょう。岡潔は、本学と歴史を同じくする奈良女子大学の教授でありました。
皆さんは、研究の世界であれ、産業界であれ、これからの時代、岡教授のようにプロセスを入念にし、手作業だけで仕事をこなすことは現実的ではなく、人工知能を巧みに活用し、最終的な判断は人間が行い、それに対して責任を取る姿勢が求められると思います。本学で修得した様ざまな力を、社会の場で自信をもって発揮していただきたいと思います。社会は皆さんの力を信じ、大きな期待を寄せています。先輩たちがそれを証明しています。
まとめに当たり、いま一度、入学式で話題にしました二つのことを振り返りたいと思います。
第一に、本学創立の歴史をしっかり記憶に留めていただきたいことです。福岡の婦人たちが高等教育の機会を求めて立ち上がり、議会に声を届けて、全国初の公立女子専門学校ができたこと。この気概(スピリッツ)が知らず知らずのうちに、本学で学んだ皆さんの中に流れ込んでいるはずです。その結果が、日本の大学ランキングにおいて総合で四十五位、女子大学にあっては第二位の高い評価を得るまでになっています。これを誇りとしてください。
第二に、本学はアカデミック職能集団のギルドであるということ。ギルドのメンバーは、仲間と子弟の絆を大事にし、身に付けた技とリーダーシップを社会で発揮する義務を持ちます。本学には、筑紫海会(つくしみかい)という同窓会があり、実社会の行く先々で諸先輩であるギルド仲間が待ち受けてくれています。必要な時に仲間を頼り、同窓の結びつきを強くしながら、培った力を発揮していただきたいと思います。女子大学であることの強みは、こういうところにあります。
では恒例の儀式、皆さんの出陣を祝して、鬨の声をあげたいと思います。日本語では、「エイ、エイ、オー」英語では「Hip, hip, hurrah」ですが、ここでは、F-W-Uと言いたいと思います。一緒に拳を上げ、声を出してください。
皆さんの前途を祝して、F-W-U
これを以って、お祝いの言葉、お祝いの声とさせていただきます。
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公立大学法人福岡女子大学
理事長兼学長 向井 剛